熟年離婚とは?注意点や進め方は?
熟年離婚とは,どのような場合を指すか,熟年離婚をする場合の注意点や離婚の進め方について,以下,ご説明します。
熟年離婚とは
「熟年離婚」に定義はありませんが,結婚してから20年以上婚姻生活を共にした夫婦の離婚をいいます。
熟年離婚は増加傾向にある
近年では熟年離婚は増加傾向にあり,昭和60年の熟年離婚件数が20434組であったのに対し,平成29年は38288組,平成30年は38537組,令和元年では40395組となっています。
また,令和元年についてみると,離婚の全体件数が208489組であったので,5組に1組が熟年離婚であることが分かります。
年齢のほか、男女別のよくあるご相談や離婚の進め方についてもぜひご覧ください。
熟年離婚の原因
長年連れ添った夫婦が離婚に至る原因はどこにあるのでしょうか。
①子どもの自立
お子さんがいる場合,離婚による子への影響や,経済的な不安から離婚を思いとどまるという方も多いのではないでしょうか。お子さんが自立後は,自分自身の生活費を賄うことが出来れば良くなるので,離婚に対するハードルは下がります。
②親(義理親)の介護の負担
婚姻年数が20年以上の夫婦の場合,年齢的に自身や配偶者の親の介護が必要になってくることもあります。自身の親のみの介護であっても相応の負担が生じるところ,配偶者の親の介護までしなければならないとなると,その負担は大きく,介護疲れから離婚という選択を決意することもあるでしょう。
③年金分割制度の創設
年金分割制度ができるまでは,厚生年金に加入している夫と専業主婦の妻が離婚した場合,年金を受給できる年齢になっても妻は厚生年金を受け取ることができませんでした。
しかし,年金分割制度の導入により妻も年金を受給できる権利が得られるようになり,年金分割を行うと原則として婚姻期間中に夫が納めた厚生年金の実績(記録)の2分の1を得ることができるようになりました。このように,老後の生活が一定程度保障されるようになったことも,熟年離婚を後押しする要因になっていると考えられます。
④定年にさしかかった
退職金は,婚姻期間に応じた部分について離婚時の財産分与の対象となるため,配偶者の退職金が支払われるタイミングで離婚を進めるという方もおられるかもしれません。
また,長年の婚姻生活の中で配偶者に対する不満を募らせていた場合,定年退職後,配偶者と一緒に過ごす時間が増えることに嫌気が差して,熟年離婚に至るというケースもあるでしょう。
熟年離婚のメリット
熟年離婚をするメリットとしては,以下のようなものが挙げられます。
①自由を得られる
長年の婚姻生活の中で配偶者に対する不満を募らせていた場合,配偶者と生活を共にすることにストレスを感じてしまうのではないでしょうか。離婚という決断によって得られる最大のメリットは,配偶者と離れることで,そうしたストレスから解放され,自由を得られるというところにあります。
また,配偶者の生活に合わせる必要もなくなるため,自分のやりたかったことに時間をかけることが出来るようになります。
②相手の親族とも縁が切れる
結婚をすると,配偶者の親族とも否応なしに交流を持たざるを得ないことが多くあります。性格が合わなければ,配偶者の親族との交流もストレスとなりますが,そのような場合も,配偶者の親族を無碍に扱うことは難しく,我慢を強いられている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚をすると,配偶者の親族とも縁が切れるため,配偶者の親族との交流から生じるストレスから解放されます。
③新しい生活を始められる
離婚をすると配偶者の生活に合わせる必要がなくなることから,自分のやりたかったことを始めたり,時間を掛けられるようになるため,これまで経験出来なかった新しい生活を送ることが出来るでしょう。
また,離婚後に新たなパートナーを見つけることもあるかもしれません。
熟年離婚のデメリット
他方,熟年離婚をするデメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
①孤独感を覚える
長年配偶者と生活していたところから突然配偶者がいなくなることで,孤独感を覚えることはあるでしょう。
②離婚後の経済的な不安
離婚後は元配偶者に生活費を頼ることも出来ないため,自身に十分な収入がなければ,経済的な不安を抱えることになってしまいます。そのため,生活の見通しを立てたうえで離婚の話を進めることをお勧めします。
③子どもや親族に迷惑がかかる
子どもが既に自立している場合であっても,親の離婚が子どもに全く影響を及ぼさないというわけではありません。子どもにとっては夫婦双方が親であることには変わりがないため,本来夫婦で互いに助け合ってくれるはずだった部分を子どもが担うことになりかねません。また,子どもがいない場合は,親族がその役目を担うことも有り得ます。
熟年離婚とお金
熟年離婚をする際,離婚後の経済的な見通しを立てることは非常に重要です。
そこで,離婚にあたり問題となる財産分与や年金分割についてご紹介します。
①財産分与
財産分与とは,夫婦が婚姻期間中に形成した夫婦の財産を分けることをいいます。分与の対象となる財産としては,土地建物や自動車,預貯金,生命保険の解約返戻金,株式や有価証券などがあります。
財産分与は,原則として,夫婦相互に2分の1ずつ権利を有すると考えられています。もっとも,夫婦共有財産の形成にあたり夫婦の一方の寄与が他方に比べ大きいといえる事情が存する場合はこの限りではありません。
財産分与を行うためには,夫婦の共有財産としてどのような財産があるか把握しておくことが重要になるため,配偶者に離婚を切り出す前に,財産関係の資料を準備しておきましょう。
②年金分割
公的年金には,国民全員が加入する国民年金(1階部分)と,会社員が加入する厚生年金や公務員などが加入する共済年金(2階部分)の二段階に分かれています。年金分割は,2階部分にあたる厚生年金や共済年金について,婚姻期間等の対象期間中に収めた保険料の納付実績を,夫婦が共同で収めたものとして分割する制度です。
離婚時の年金分割には「合意分割」と「3号分割」があり,「合意分割」を行うためには,夫婦で按分割合を合意するか審判などの方法で裁判所に按分割合を定めてもらう必要があります。
他方,「3号分割」の場合,平成20年4月1日以降の婚姻期間内で国民年金の第3号被保険者期間があれば,その間の納付実績を当然に2分の1ずつ分割することが出来るため,夫婦で按分割合の合意をする必要はありません。
「合意分割」も「3号分割」も,離婚等をした日の翌日から2年以内に請求をする必要があります。
もっとも,2年経過前に家庭裁判所に対し請求すべき按分割合に関する処分等の申立てをした場合,事件の進行中に2年を経過しても請求権を失いません。但し,その場合,按分割合を定めた審判や判決の確定後又は調停や和解の成立後1か月以内に年金分割請求をする必要があります。
熟年離婚と相続
①葬儀の費用や方法
元配偶者が亡くなった場合,葬儀費用を負担する必要はありません。
また,離婚前であっても,葬儀をするかどうか,喪主を誰にするか,葬儀費用を誰が負担するかということは法律で定められているわけではありません。したがって,こうした事柄は残された親族間で協議して決めることになります。
②遺産の分け方
離婚後は「配偶者」ではありませんので,法定相続人にはなりません。したがって,元配偶者が亡くなった場合,その財産を相続することは出来ません。
熟年離婚のポイント
①離婚後の経済的安定の確保
離婚後は配偶者の収入に頼ることが出来なくなるため,離婚後の生活の見通しを十分に立てましょう。
②共有財産の適正な分配
離婚後の経済的安定を図るためには,離婚時に適正な割合で財産分与を受けることが重要になります。適正な割合での財産分与を受けるためには,どのような財産があり,それにどれだけの価値があるか把握する必要があります。したがって,財産資料等を入念に準備のうえ離婚の話を進めましょう。
まとめ
以上述べてきたとおり,熟年離婚するメリット・デメリットはそれぞれありますが,メリット・デメリットを比較して,後悔のない選択をしましょう。
また,離婚を決意した場合,離婚にあたり損をしないように,入念な準備をすることをお勧めします。