離婚調停で親権を取るには?事前準備から調停申立、判断基準まで弁護士が徹底解説

離婚の際に必ず決めなければならないことの1つが子どもの親権です。親権を定めることは民法819条1項で規定されており、子どもの親権を行使する者を定めない限り離婚を成立させることができません。
夫婦間で決めることができれば問題はありませんが「財産分与、慰謝料は不要だが親権は譲れない」と夫婦間では話がまとまらないというケースも少なくありません。
その場合は離婚調停において親権が争点となります。では親権を獲得する為にはどうすれば良いのでしょうか。

この記事では離婚調停時の親権を獲得するために知っておきたいポイントを紹介します。

離婚調停で親権を争う前に知っておきたいこと

離婚調停で親権争いとなる前に、どのようなケースにおいて親権争いとなるのか知っておく必要があります。親権争いとなるのは主に以下のケースです。

調停で親権が争われる主なケース

親権争いとなるのは主に以下の3つのパターンが考えられます。
1つ目は、そもそも離婚をするか否かが争点となっている場合。
2つ目は離婚に同意しているものの、どちらが親権を持つかが争点になっている場合。

そして3つ目は、離婚後に一度決定した親権を変更するケースです。

このうち1つ目と2つ目のケースは夫婦関係調整調停、3つ目は親権者変更調停と呼ばれます。
本来離婚・親権問題は夫婦間で話し合って決めますが、結論を出すことが難しい場合に夫婦関係調整調停に持ち込まれます。それでも基本的には夫婦間で話し合って決めることになりますが、異なるのは調停委員2名と裁判官1名からなる調停委員が第三者として夫婦の間に立つ点です。
第三者が間に入り仲介役を担うことで客観的な見解を導入し、冷静かつ合理的に判断することができます。

親権者を決めていない状態で離婚届を提出することは不可能

離婚届には子の親権者を指定する項目が設けられています。先述のように離婚届を出す場合、必ず親権者を決める必要があります。この項目が空欄、つまり親権が決まっていない状況では離婚届けは受理されません。

なお子どもが成人している場合、もしくは未成年でも結婚している場合はこの限りではありません。

親権と身上監護権について理解しておこう

親権には「身上監護権・財産管理権」の2つの権利が含まれています。それぞれ解説していきます。

親権(身上監護権/財産管理権)

身上監護権とは主に子どもの保護・教育に関わる権利です。これには以下の権利が含まれます。
・居所指定権:子どもが住む場所を指定する権利
・懲戒権:子どもに対して親が懲戒・しつけをする権利
・営業許可権:子どもが職業を営むにあたって親がその職業を許可する権利
・身分上の行為の代理権:子どもによる身分法上の行為にあたっての親としての同意・代理権

一方、財産管理権に含まれるのは以下の2点です。
·包括的な財産の管理権
·子どもの法律行為に対する同意権

こちらは子どもの財産に関わる権利です。例えば親権者は子どもの預金口座を管理できます。また子どもの名義で締結する売買契約などに関して、親権者として解消したり、追認したりすることができます。

身上監護権

親権に含まれる身上監護権は、独立して「監護権」と呼びます。「監護権」は子どもの世話や教育をする権利義務であり原則として親権者が行使する権利です。

例外的に親権と監護権と財産管理権を分けてそれぞれに与える場合があります。例えば、親権を持つ父親が仕事の都合上子どもの近くに住むことができず世話ができない場合などに、母親が監護権を持つといったケースです。

離婚調停で親権を獲得するためのポイント・判断基準

ここからは離婚調停で親権を獲得するために重要視されるポイントを解説します。

子どもへの愛情

当然のことと思われるかもしれませんが、子どもへの愛情は親権を獲得するための重要な要素です。しかし愛情は数値やデータ、物的証拠で表せません。
そのため離婚調停では愛情を測るため、今まで子どもとどれだけ一緒に過ごしていたか、などの要素が客観的に判断されます。既に別居している場合は子どもと一緒に暮らしている方が有利となります。
父親よりも母親が親権を取るケースが多いのはこうした点が関係しています。

これまでの監護実績(養育実績)

客観的な判断材料として重要視されるのが、これまでの監護状況です。つまり、これまでの子どもとの関わり方・接し方・教育の仕方などの養育状況です。
裁判所は、子どもが離婚後もできるだけ離婚前と同じ環境でいられるかどうかを重要とします。過去の接し方で今後も適切な監護が可能かを見極めるのです。
したがって先述の「子どもへの愛情」と同様、より主体的に子どもと接してきた方が親権の獲得には有利になると言えます。
子どもを監護養育してきた実績がわかれば、親権者として相応であるという点をアピールすることができます。そのため、日々の養育状況を日記やメモで記録しておくのがおすすめです。

親の健康状態

持病があり健康状態が良好でない・精神的に不安な面があるなど、心身共に健康でない場合、子どもを育てていくうえで適切でないと判断され、親権争いで不利になる可能性もあります。
場合によっては、健康に問題が無いことを証明する医師の診断書が必要になることもあります。

親の経済状況

経済的な状況の良し悪しも親権獲得において重要な要素です。今後の子どもの学費・生活費など、十分に養っていく能力があるかどうかが判断されます。
しかし経済的に十分でない場合でも、養育費を受け取ることで補填できることもあります。
したがって、父親・母親双方の収入が十分であれば問題はありません。

子どもの年齢と意思の尊重

そもそも親権争いは「子どもにとってこれまでと同じ生活を維持できるのはどちらか」を客観的に判断するということです。したがって父親・母親どちらが親権を持つのかということは、親だけでなく、当然ながら子どもの意見も尊重されるべきです。
子どもが15歳以上の場合、裁判所で子どもの意思を問われ、基本的には子どもの意思が尊重されます。乳幼児など年齢が幼い場合は、母性の存在が情緒的成熟のために重要とみなされ、母親が親権を持つ傾向にあります。

離婚調停を行う流れ

離婚調停は基本的に以下の流れで進行します。
1.離婚調停の申し立てをする
2.調停を行う
3.2回目の調停を行う(1回で終わらなかった場合)
4.話し合いがまとまるまで調停を繰り返す
5.離婚調停の終了

以下に、それぞれの手順にそって詳しく解説します。

離婚調停の申し立てをする

まずは家庭裁判所へ離婚調停の申し立てをします。申し立てには以下の書類が必要です。
・夫婦関係調整調停申立書(裁判所提出用・相手方送付用)とその写し1通(控え)
・標準的な申立添付書類
・申立人の印鑑
・申立人の戸籍謄本
・相手方の戸籍謄本
・年金分割の為の情報通知書(年金分割が必要な場合)

また書類の準備には以下費用が発生します。
・収入印紙代:1,200円
・戸籍謄本代(全部事項証明書):450円
・郵便切手代:申し立てをおこなう家庭裁判所に確認
・住民票の発行費:市区町村によって費用は異なる

以上の書類を用意し家庭裁判所への申し立てが完了したら、実際に調停が始まります。

調停を行う

離婚調停が行われるのは平日です。1回目の調停で合意に至らない場合は、2回目に持ち越され、最終的に合意となるまで継続して行われます。
夫婦間でどちらか一方が離婚に合意しない場合、離婚は不成立となります。
離婚調停で押さえておくべき重要な点は、離婚調停期間中に家庭裁判書の調査官が家庭訪問を行うということです。
家庭裁判所調査官は裁判所から派遣されます。夫婦間の離婚調停に第三者として間に立ち、子どもにとってどちらが親権を取るのが最良かを客観的に判断するために家庭内の状況を調査するのが任務です。
調査官が調査するのは主に以下の項目です。

・子どもと面談(相当年齢以上の子)
子どもの意思を確認するために、調査官は子どもと直接面談をします。子どもが幼く、本音が聞きだせない場合は、心理テストを実施するなどして子どもの本音を導き出します。

・家庭訪問
親子関係や劣悪な環境で育てられていないかなどの生活環境を調査します。清潔感の無い環境などは親権獲得する上でマイナスとなるため、日頃から清潔にしておく必要があります。

・学校訪問
子どもの学校(保育園、幼稚園などを含む)での状況を調査します。

・子どもの養育環境
父親と母親どちらがより子育てに関与しているかを確認します。

・今後の養育方針
今後の子育てについてどういうビジョンを持っているかを確認します。

・親権者としての適合性
親権を望む親が本当に親権者として適合しているかを判断します。

離婚調停で親権を争う前に準備しておきたいこと

離婚調停の際のポイントを押さえたら、調停の準備を始めましょう。
どのような点に注意すれば良いのかを以下に解説します。

家庭裁判所の調査官への対応や準備

前述のように家庭内の事情を調査しに来る、家庭裁判所の調査官に対しての準備が必要です。調査官に対して好印象を持ってもらえる対策をしておきましょう。
具体的には「調停や待ち合わせなどの時間を守る」「自宅を清潔にしておく」「親権者として相応しい点をアピールする」などです。
家庭裁判所の調査官は、親権者の選択において非常に強い影響力を持っています。したがって、調査官へ好印象を与えることができれば親権獲得の可能性も高くなります。
しかしながら、調査官は子どもへ直接の面接も行います。普段とあまりにも違う姿はすぐに露呈してしまうでしょう。
子どもへの対応はいつも通りに、それでいて入念な準備が必要です。

離婚に強い弁護士に依頼する

離婚に関しては、弁護士に依頼するのも一つの手段です。法律の専門家である弁護士は強い味方となるでしょう。また弁護士への依頼自体が、調停委員に「親権を取るための強い意志」として伝わる可能性もあります。
弁護士のなかでも離婚問題に強い事務所であれば、これまでの経験やノウハウからより心強いアドバイスがもらえるでしょう。

調停委員に子どもへの愛情を伝える

シンプルですが子どもへの愛情を伝えるのは非常に効果的です。調停委員も人です。客観的とはいえ、少なからず感情が判断に影響を与えます。

離婚調停で親権を獲得する割合

離婚の際、親権は母親が持つものというイメージが強いのではないでしょうか。司法統計では実際に母親が親権を持つのは9割に上ります。
これはそもそも親権争いになるのは未成年の子どもが対象であり、生物学的、社会学的などの観点から母親が親権を持つのが良いといった理由が影響しています。
特に乳幼児ぐらいの幼子であれば、よりその傾向は強くなるでしょう。
しかしながら例外もあります。
例えば「母親が育児放棄をしている」「虐待の兆候・形跡がある」「物理的に一緒に住むことが不可能」または「子どもが父親との生活を希望している」などの場合は、父親が親権を獲得することも十分にありえます。

まとめ

離婚・親権に関しては基本的に夫婦間で解決するのが一番です。しかしながら、夫婦の状況や環境によっては双方が自身の意見を主張し、なかなか話が進まないということも十分に起こりえます。
そうした場合は離婚調停となりますが、それでも話がスムーズいまとまるとは限りません。また親権争いは調査官の家庭訪問による審査もあります。
したがって子どもの親権を取るには万全の対策が必要です。そのためには経験・ノウハウが豊富なプロの弁護士に相談するのがおすすめです。
できるだけ早い段階で相談し、十分に対策をとっておくのが良いでしょう。



監修者:
弁護士法人西村綜合法律事務所 代表弁護士 西村啓聡

[経歴]
東京大学卒業
第2東京弁護士会登録、岡山弁護士会登録

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