裁判離婚とは?手続きや流れは?どのような場合に裁判離婚できる?

協議離婚や調停離婚がまとまらなかった場合に最終手段として考えるのが裁判離婚です。
日本で離婚する夫婦のうち,裁判離婚をしている夫婦はわずか1~2%程度です。
少数派の離婚方法ではありますが,調停離婚が成立しなかった場合にどうしても離婚したい場合には,裁判離婚を選択することも十分に考えられます。
裁判離婚に関してしっかりと理解した上で,裁判離婚を有利に進めていきましょう。

裁判離婚とは

裁判離婚とは,調停で離婚することについて夫婦間で合意ができないときに,家庭裁判所に離婚訴訟を提起して,判決で強制的に離婚を成立させる手続きをいいます。
(離婚調停を行なわずにいきなり離婚訴訟を提起することは原則としてできません)。

離婚手続きの全体的な流れ

離婚するには以下の3つのステップを経ます。
〈協議離婚〉協議離婚は,夫婦間の話し合いによって離婚に合意し,市区町村に離婚届を提出する離婚方法です。

〈調停離婚〉離婚についての話し合い(協議離婚)がまとまらない場合や,さまざまな事情で夫婦間の話し合いが難しい場合に,家庭裁判所の調停手続きを利用して,離婚に向けた話し合いを行う方法です。

〈裁判離婚〉家庭裁判所が判決で強制的に離婚を成立させる離婚方法です。

協議離婚・調停離婚との違い

裁判離婚は,以下の2点で協議離婚や調停離婚とは性質が異なります。

①夫婦で離婚についての合意は不要

協議離婚や調停離婚をする場合は,夫婦間で離婚や離婚条件について合意がなければ離婚することはできません。
他方で,裁判離婚の場合には,夫婦の一方が離婚することについて同意していなくても,裁判所の判断で判決という強制力をもって離婚することができます。
相手が離婚に応じない場合に離婚する最終手段ということです。

②法定離婚事由がなければ離婚できない

また,夫婦間で離婚や離婚条件について合意さえあれば,協議離婚や調停離婚は成立します。
離婚原因は問われません。
他方で,裁判離婚をするためには離婚原因が限定されており,下で説明する「法定離婚事由」に当てはまらなければ離婚判決を得ることはできません。
その意味で,裁判離婚が認められるためのハードルは高くなります。

いきなり離婚訴訟を提起できる?

協議離婚を試みたものの,相手が絶対に離婚には応じない姿勢を貫いているため,離婚調停を申し立てても調停が成立する見込みがほとんどないケースがあります。
そのような場合に,離婚調停を申し立てても無駄だから,調停をすっ飛ばしていきなり離婚訴訟を提起したいと思われる方もいらっしゃると思います。
しかし,協議離婚不成立後にいきなり離婚訴訟を提起することは認められていません。
裁判をする前に,裁判所で調停手続を踏まなければいけないことが法律上決められているためです。これを調停前置主義といいます。
夫婦間の問題は,話し合いを通じてお互いが納得した上で解決することが望ましいという考えから,調停前置主義が法律で定められているのです。

離婚訴訟を提起するための条件

上で触れた裁判離婚が成立するために必要な離婚原因(法定離婚事由)について確認しておきましょう。法定離婚事由は、民法770条1項各号に定められています。

①不貞行為

不貞行為とは,いわゆる浮気や不倫のことで、男女の肉体関係を伴っているものをいいます。
一時的な関係にとどまるのか,あるは長年関係が継続しているのかといった違いや,不倫相手や妻に対する愛情の有無・強弱によって「不貞行為」該当性が変わることはありません。
不貞行為の詳細については,こちらの記事をご覧ください

②悪意の遺棄

夫婦は相互に,同居・協力・扶助(ふじょ)といった義務を負っています。
ギャンブル中毒になり働かない,生活費を一切渡さない,勝手に家を出てしまったなどにより,故意に上記義務を果たさない行為のことを「悪意の遺棄」といいます。

③3年以上の生死不明

3年以上にわたり配偶者からの連絡が途絶えて生死も不明な場合には,離婚訴訟を提起して離婚することができます。
また,生死不明が7年以上継続する場合には,家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることが出来ます。失踪宣告が確定すると配偶者は死亡したものとみなされ,婚姻関係は終了します。

④回復の見込みがない強度の精神病

配偶者が精神病になったという理由だけでは認められません。
夫婦生活に必要な協力や扶助といった義務が果たせない状態に至っていれば,「強度の精神病」に当てはまる可能性があります。
具体的には,まともに会話ができない,意思の疎通がまったくできないような状況であれば,これにあたる場合があります。
「強度の精神病」に該当する典型的な病名は、統合失調症や躁うつ病です。
精神科医の診断やこれまでの介護や看護の状況,離婚後の配偶者の治療や生活などを総合考慮して,裁判官が離婚の可否を判断します。

⑤その他の婚姻を継続しがたい重大な事由

「その他の婚姻を継続しがたい重大な事由」は、上記①から④以外の離婚原因を包括的に定めたものです。
一般的には,婚姻関係が破綻しており回復の見込みがない場合を指します。
夫婦関係が事実上破綻しており,精神的・社会的・経済的に夫婦関係の修復が困難な状況であると裁判官が認めた場合には,「その他の婚姻を継続しがたい重大な事由」にあたるとされ,判決で離婚が認められます。
具体的には、以下のようなケースがあります。

・性格の不一致や価値観の不一致があり夫婦間のいがみ合いが激しい
・配偶者の親族とのトラブル(姑の嫁いじめなど)
・多額の借金
・宗教活動にのめり込む
・DV(家庭内暴力)
・モラハラ(モラルハラスメント)
・ギャンブルや浪費癖
・勤労意欲の欠如
・性交渉の拒否・性交不能
・犯罪による長期の服役

離婚訴訟の流れ

法定離婚事由についてご理解いただけたでしょうか。ここからは,離婚裁判の基本的な流れについて説明します。よく確認しておきましょう。

①訴えの提起

離婚調停が不成立となった後に,離婚を求める夫婦の一方が,家庭裁判所に離婚の訴えを提起します。
夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所に訴状を提出することが必要です。
なお,親権者の指定や養育費、慰謝料、財産分与などの請求も同時に行うことができます。

②第1回口頭弁論期日の指定

訴状を受け取った裁判所は,訴状や添付書類等の形式的な審査をしたうえで,第1回目の期日を指定します。
初回期日は,訴状の提出から約1ヶ月後に行われることが通常です。
また,相手方(被告)には,裁判所から期日の呼出状と訴状の副本が郵送されます。
被告は,第1回口頭弁論期日の約1週間前までに,あなた(原告)の提出した答弁書に対する反論を書いた答弁書を裁判所に提出しなければなりません。

③初回の期日

初回期日では,原告が訴状に記載した通りの請求をし,被告が答弁書に記載した通りの反論をします。
裁判官は訴状と答弁書で食い違う部分(争点)を確認した上で,準備書面という反論のための書面や不足する証拠の提出を指示することが一般的です。

④2回目以降の口頭弁論

次回以降の期日も,ほぼ1ヶ月に1回のペースで開かれます。
2回目以降の期日では,双方の主張と反論を口頭弁論の場で繰り返していくことを通じて,離婚裁判の争点を整理していきます。原告と被告の双方が,自分の主張を裏付ける証拠を提出します。このような主張と反論が数回の期日を通じて繰り返されます。
裁判所は,双方の提出した証拠を基に,どちらの主張が法的な観点からみて正当かを判断することになります。

証拠には、以下の2種類があります。

⑴書証

書証とは,法定離婚事由に該当することを証明する書類や資料をいいます。
例えば,不貞行為を理由に離婚する場合には,不倫相手とホテルに出入りする写真や不倫相手とのLINEのやり取りなどがこれにあたります。

⑵人証

人証とは,法定離婚事由に該当することを証明するための証人尋問や本人(当事者)尋問のことを指します。
書証が紙に書かれたものであり,人の発言による場合を人証と区別すると分かりやすいかもしれません。
例えばDVを理由に離婚する場合、夫が妻に対して暴力を振るっていたのを目撃した同居の(義理)親が証人として証人尋問を受けることなどが考えられます。

また,離婚訴訟の場合は、夫婦の関係性などは当事者に聞かないことには判断が難しいことが多いため,夫婦それぞれの本人(当事者)尋問が行われることが一般的です。

⑤和解の試み

離婚訴訟の続行中に,裁判所から数回にわたって和解を勧められることが一般的です。
訴訟提起後に和解が成立することを,裁判上の和解といいます。
これは,当事者双方の互譲があってはじめて成立します。
当事者双方の合意が必要なため,どちらかの主張が一方的に退けられることがないという点で裁判離婚とは異なります。
その反面,自分もある程度の譲歩は覚悟しなければならず,自分の言い分を全て通すことは難しくなります。

裁判官の提案する和解提案の内容を受け入れるかどうかは当事者の自由は判断に委ねられています。
どうしても納得できないのであれば,必ずしも裁判所の和解提案に従う必要はありません。
和解が成立すると,裁判所が和解調書を作成します。和解成立後10日以内に役所に和解調書を持参して離婚届を提出すれば,和解離婚が成立します。

⑥弁論の終結と判決の言い渡し

数回の期日を重ねた上で,裁判官が判決を下すのに十分な主張と証拠がそろったと判断すると,弁論が終結され,判決の言渡期日が指定されます。
裁判所が法定離婚事由に該当し,離婚することが相当だと判断した場合には,判決期日に「原告と被告とを離婚する。」という内容の離婚判決が下されます。
離婚判決は,判決書が送達された日から2週間が経過すると確定します

⑦離婚届の提出等

離婚判決が下されて2週間後に判決が確定すると,その時点で離婚が成立します。
離婚を認める判決が出された場合にも,和解離婚の場合と同様に,離婚成立日から10日以内に役所に離婚届を提出しなければなりません。
判決自体で離婚は既に成立していますから,裁判離婚の場合の離婚届の提出は協議離婚などの場合とは異なり,形式的な届出として必要とされています。
離婚届を提出する際には判決書を添付する必要がありますが,相手の署名押印は不要です。

結婚で姓を変えた方は,離婚後は旧姓に戻るのが原則です。
これを復氏といいます。
もっとも,離婚した日から3か月以内に役所で「離婚時に称していた氏を称する届出」をすれば,離婚前の姓をそのまま名乗ることができます。
この届出は離婚届の提出と同時にしないといけないことではありません。
ただ、3か月が過ぎてしまうと氏の変更が認められるためのハードルがぐっと高くなってしまいます。
そのため,離婚後速やかに手続きを済ませておくことをおすすめします。

訴訟提起の際に準備するもの

家庭裁判所に離婚訴訟を提起するためには,何が必要になるのでしょうか。離婚訴訟に必要な書類や費用について説明します。

①離婚裁判の訴状 2通

訴状とは,裁判所に対して離婚裁判の開始を求める書面をいいます。
1通は裁判所提出用(正本)で,もう1通は相手方(被告)に送達(副本)するために必要となります。

②調停不成立証明書

上で説明した調停前置主義との関係から,調停が成立しなかったことを証明する書面が必要です。
調停不成立証明書は,離婚調停が行われた裁判所で発行してもらうことができます。証明書の請求に費用はかかりません。

③夫婦それぞれの戸籍謄本

訴え提起時に夫婦であることを証明するための資料として,夫婦双方の戸籍謄本を添付する必要があります。
戸籍謄本の請求にかかる費用は,1通450円です。

④訴訟費用

離婚訴訟にかかる費用は以下の通りです。

⑴申立て手数料(収入印紙)

13,000円(裁判所によって多少異なります)となります。
離婚訴訟と合せて160万円を超える慰謝料を請求する場合には,慰謝料の金額に応じた申立て手数料がかかります。

⑵書面の郵送用の予納郵券(切手)

岡山家庭裁判所の場合は、6,176円となります。

⑶実費

必要書類の取得費用がこれに含まれます。期日に証人や鑑定人を呼んだ場合には,旅費や日当もかかります。
ご自身で訴訟を提起する場合には,数万円程度で訴訟提起ができると考えておくとよいでしょう。

他方,弁護士に依頼する場合には,上の費用に加えて弁護士費用がかかります。
弁護士費用の相場は,着手金として20万円から40万円,成功報酬として同じく20万円から40万円です。さらに慰謝料請求もしている場合には,獲得した慰謝料の10%~18%の金額が成功報酬に加算されることが一般的です。
弁護士費用は総額で40万円から100万円程度になるとみておくとよいでしょう。

さらに裁判離婚で財産分与,婚姻費用や養育費,親権についても同時に争う場合には,別途申立て手数料がかかります。

離婚訴訟にかかる期間は?

離婚訴訟にかかる期間は,平均して1年から2年程度です。
もっとも、争われている事実の内容や、双方の提出する証拠の有無によって変わってきます。長引いてしまうケースでは3年ほどかかることを珍しくありません。さらに相手方が控訴すれば,訴訟はさらに長期戦となります。
離婚調停にかかる期間が平均して4か月から5か月程度ですから,調停離婚が成立しなかった場合には長丁場になることを覚悟しておく必要があります。