年金分割とは

離婚の際には、老後等のための年金のことも考えておく必要があります。
具体的には「年金分割」という手続の利用を検討するのですが、制度の内容が非常にわかりずらいです。
今回は、この「年金分割」という制度について、説明してみたいと思います!

どんな制度か?

現在の日本の年金制度を簡単に説明すると、
「婚姻期間中、自分も家庭を支えたのに、年金記録上、配偶者だけが多く年金保険料を納めたことになっているため、将来もらえる年金額に大きな差が生じてしまう」
ということが起こってしまうため、そのような不平等を是正するために設けられた制度
です。

ではどうやって是正するのかというと、
「婚姻期間中の年金の納付記録を書き換えて、配偶者が納めた年金保険料の一部を自分が納めたことにしてもらう」ことで、将来受け取れる年金額を増やします。これが年金分割です。年金分割について合意で定めるときは「按分割合を0.5とする」などと取り決めますが、これは、「対象期間中に夫婦の一方が納めた厚生年金の保険料の半分は、もう片方が納めたことにします」という意味です。

誰のための制度か?

上で、「現在の日本の年金制度では、『婚姻期間中、自分も家庭を支えたのに、年金記録上、配偶者だけが多く年金保険料を納めたことになっているため、将来もらえる年金額に大きな差が生じてしまう』ということが起こってしまう」と書きました。

これは、誰にでも起こることではありません。そして年金分割は、そのようなことが起こってしまう人のために設計された制度です。
では、それはどんな人でしょう?

誰のために作られた?

今の日本の年金制度は「3階建て」と言われています。少し雑な説明になりますが、
① 一番下の「1階」部分は、20~60歳までの全ての人が加入する国民年金です。
② 真ん中の「2階」部分は、要は会社員や公務員向けの年金である厚生年金です。企業や公共団体に使用される70歳未満の人が加入します。
③ 一番上の「3階」部分は、要は私的に加入する年金です。

このうち問題なのは②です。分かりやすいのは夫婦のどちらかが専業主婦/主夫の場合で、専業主婦/主夫の方はそもそも厚生年金の対象外であり、したがって当然、厚生年金保険料を納めたことにもなっていません。そのため、配偶者との間で、将来もらえる年金額に大きな差が出てしまいます。これは問題だろうということで、年金分割の制度が設けられました。

年金分割をする意味があるのは誰?

典型的場面は上記のとおりですが、今日、夫婦の形は様々です。双方共働きで会社勤めをしつつ、収入の少ない方が家事を多く負担していることも多いでしょう。
そのような場合、夫婦とも厚生年金保険料を納めてはいるわけですが、だからといって年金分割の制度を使えないわけではありません。納付額が配偶者と比べて少なくなっている方は、年金分割制度の活用を積極的に検討されるといいでしょう。

ただし、配偶者が事業主の場合は別です。その場合、配偶者は、たとえ多額の収入があろうが厚生年金に加入していないわけですから、年金分割制度は使えません。

それと、残念ながら、ご自身が年金保険料を納めた期間(免除期間を含む。)の合計が10年に満たない場合、そもそもご自身に年金の受給資格がありませんから、年金分割の請求をすることはできません。

話し合うといいのはどんなとき?

「3号分割」について

実は年金分割制度を利用する場合は、必ずしも話し合いから入る必要はありません。

★「厚生年金加入者の配偶者で、かつ、主として配偶者の収入により生計を維持している」
場合、年金事務所に「標準報酬改定請求書」(日本年金機構のHP から入手できます。)を提出するだけで、按分割合2分の1とする年金分割を実現できます(ただし、添付書類(本人確認書類や戸籍謄本等)は別途必要。)。上記★のような方を国民年金法上「(国民保険の)3号被保険者」と呼ぶため、この手続のことを「3号分割」といいます。
したがって、3号分割をすることができる方は、配偶者と話合いをしなくても、自分で年金事務所に書類を提出するだけで、年金分割を実現できます。

ただ、この年金分割という手続自体、実は比較的最近できた制度です。そのため、3号分割ができるのは、同制度が始まって以降(具体的には、平成20年4月1日以降)の「3号被保険者」期間分に限られます。ですので、平成20年3月以前の分も年金分割したい、という場合は、残念ながら、その分については話合いをせざるを得ません。

何を話し合うのか?

さて、3号分割ではない年金分割を「合意分割」「離婚分割」などと呼びます。その場合、按分割合をいくつにするかを夫婦で話合い、まとまらなければ裁判手続に移行します。調停、審判、人事訴訟のどれかの手続で按分割合を定めることになるでしょう。

ただ、実は、按分割合をめぐって揉めることは、そこまで多いわけではありません。
というのも、財産分与等と異なり、年金には老後等のための社会保障的意義があるため、裁判所としては、その保護を弱めることには慎重にならざるを得ません。したがって、審判や裁判ともなれば按分割合はほぼ0.5であり、他の割合になることは極めて稀と言っていいでしょう。当事者ご自身も、年金分割の按分割合を調整しようという方は、あまりお見受けしない印象です。

では逆に、どういう場合に火種になり得るかというと、
「実質的に保険料を2分の1ずつ負担しているものと到底捉え難い場合」です。例えば、別居期間が相当な長期に及んでいる場合、それだけの間家庭の維持に何も貢献しなかった側に按分割合0.5を認めることには疑問の余地があります。別居のきっかけが被扶養者側の不貞にあった場合などは尚更でしょう。このような場合は、年金分割についてきちんと話し合うべきですし、裁判手続で主張する意味もあるでしょう。

あとは、年金分割そのものというより、例えば、財産分与でそこそこ色を付けたことのバーターとして按分割合を少し下げるようなことは、あり得ることだと思います。

困ったときは相談を!

このように、年金分割について深刻に検討しなければならない場面は、実は、そこまで多くはありません。ただ、当事者の皆様にとってその判断が難しいことは当然ですし、そもそも、制度自体が分かりにくいという問題もあります。

そのような場合は、きちんと相談することをお勧めします。年金分割の手続そのものについては年金事務所、按分割合をどう主張すべきかについては弁護士に相談するといいでしょう。

なお、年金分割は、原則として離婚した日の翌日から2年以内に手続を行わないと、請求権がなくなります。いかんせん、基本的には老後の話ですので、離婚時に意識が向きにくい点は否めませんが、現代の老後は長いです。きちんと離婚時に話をつけて、手続まで行っておきましょう。

手続はどうすればいいの?

最後に、手続の流れを説明します。前記のとおり、3号分割は年金事務所に書面を提出するだけですから、合意分割(離婚分割)について説明します。

情報提供請求

まず、話合い等の前提として、情報、つまり年金納付記録が必要ですので、これを取り寄せます。年金事務所に対して、「年金分割のための情報通知書」を提供してもらえるよう請求しましょう。この手続は一人で行うことができます。

なお、この請求をした方で満50誌以上の方については、年金分割をしない場合の年金見込額、年金分割をした場合の年金見込額等の情報提供も受けられることになっています。

按分割合の決定

次に、按分割合を決めます。前記のとおり、話合いでまとめるか、まとまらなければ調停、審判、訴訟のいずれかです。

ここで、話合いでまとめる場合で、次の年金分割請求手続を確実に二人で行える保障がないなら、必ず、公正証書を作っておいてください。そうでないと、年金分割請求手続ができません。

年金分割請求

按分割合が決まったら、最後は、年金事務所に対し、公正証書等又は調停調書等の裁判所の文書を提出します。これが「標準報酬改定請求」と呼ばれるもので、これにて手続は終了です。後日、「標準報酬改定通知書」が送られてきます。

例外的に、元夫婦二人で年金事務所等に合意書等を持参する場合は、公正証書等ではなく、合意書で足ります。



監修者:弁護士法人西村綜合法律事務所 代表弁護士 西村啓聡
[経歴]
東京大学卒業
第2東京弁護士会登録、岡山弁護士会登録

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