離婚する前の準備について

離婚を検討している人のなかには何から始めてよいのか分からない、何をするべきか分からないといった悩みを抱える人は少なくありません。

離婚をする際には、あらかじめ知っておきたい大切なポイントがいくつもあります。なかでも離婚の手続きを進めるときに特に気を付けたいのは、前もって十分な「準備」をすることです。

この記事では離婚に対する心構えや一般的な手続きの流れなどを説明します。離婚に関する法的・金銭的な基礎知識についても詳しく紹介しますので、離婚の準備を進める前にしっかり確認しておきましょう。

離婚をする前の心構え

離婚は入籍するときに比べ簡単に進まないこともあります。衝動的に離婚を進めるのではなく、まずはこれから説明するポイントを把握しておきましょう。

離婚は準備が大切

気持ちだけが先走り、感情に任せて相手に離婚を切り出さないようにしましょう。
なぜなら離婚後の生活の目途がつかないままに離婚してしまうと、経済的に困ることになりかねないからです。

また、自分にとって不利な条件でも早く離婚したいと考えてしまうと、住む場所や子育てなど後から苦労することもあります。離婚をするためにも重要なのは「準備」です。

離婚は成立するまでに時間がかかる

離婚はお互いの同意が得られないと成立しないため、一般的に離婚できるまでに時間がかかることが多いです。

また、離婚するまでに双方で取り決めをすることも多くあります。感情に流されないように努めて冷静に離婚準備をじっくり進めていくことが大切です。

焦って感情的になればなるほどこじれてしまい、結果的に多くの時間がかかるということにもなりかねません。

離婚は心身ともに負担が大きい

離婚は夫婦で話し合うことが多く、さまざまな手続きが必要になるケースもあります。離婚までの期間が長いほど疲労しやすいので注意が必要です。

長引いた分だけ費用がかかるだけでなく、精神的にも大きな負担になります。できるだけ長引かせないために、準備を十分にしておきましょう。

離婚するまでの流れは?

離婚は互いが合意すれば離婚届を提出して成立します。
双方の合意が得られない場合は「調停離婚」さらに「裁判離婚」へと進むこともあるため、まずは離婚するまでの流れを押さえておきましょう。

調停離婚は当事者の話し合いがまとまらず、平行線をたどっている場合に利用する方法です。調停は裁判とは異なり非公開で調停室において個別に行われるため、夫婦が顔を合わせる心配はありません。2人のあいだに家庭裁判所が入り話し合いによって合意を目指す、と捉えておけばいいでしょう。
一般的には調停委員がそれぞれの言い分を聴き、提案をしながら話し合いを進めていきます。合意に至れば法的な効力も有する「調停調書」が作成されます。

一方で、調停離婚が成立しなかった場合は最終手段として家庭裁判所に離婚請求をするほかありません。このように裁判所に申し立てをして離婚することを「裁判離婚」「判決離婚」と言います。

裁判離婚になった場合は裁判所からの判決を待つ必要があるので、離婚成立までの期間が長期にわたることも多くなります。調停離婚や裁判離婚よりも、双方の合意による協議離婚のほうが早く離婚が成立することを理解しておくと良いでしょう。

離婚が認められる「法定離婚事由」とは

裁判で離婚するには法的に認められた理由となる「法定離婚事由」が必要です。ここではどのような場合に離婚が認められるのか、その内容を説明します。

自身の離婚理由がどれに当てはまるのか不安なときは、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

不貞行為(民法770条1項1号)

不貞行為に関する法定離婚事由は「夫婦の一方が自由な意思に基づいて配偶者以外と性的な関係を持つもの」と定められています。いわゆる「不倫」がこれに該当しますが、性的な関係や身体的な接触がなければ法的な離婚理由になる不貞行為とは認められません。
しかし、夫婦仲が破綻してからの不貞行為については、裁判で離婚理由として認められない場合もあるので注意が必要です。

悪意の遺棄(民法770条1項2号)

婚姻関係には法的にさまざまな義務があり、同居・協力・扶助の義務、婚姻分担費用義務などがこれに当たります。
「悪意の遺棄」とは、婚姻関係が破綻することを分かったうえで法的な義務を果たさないことです。具体的には、不倫相手の家へいったまま帰らない、家族を置いて出て行くなどのケースが挙げられます。

3年以上の生死不明(民法770条1項3号)

家を出てから生死の確認が取れなくなって3年以上経った場合は「3年以上の生死不明」の法定離婚事由に当たるため離婚できます。
電話や郵便物などで連絡がつく場合は「所在不明」なので、法定離婚事由にはなりません。

強度の精神病となり回復の見込みがない(民法770条1項4号)

夫婦のどちらかが強度の精神病になり、なおかつ回復の見込みがない場合は法定離婚事由になります。病気が重く、同居・協力・扶助の義務などを遂行できないと判断されれば、離婚が成立する可能性が高くなります。

ただし、精神病を患っている配偶者が離婚後に生活できる保証が得られないケースなどは実際に離婚するのは難しくなるでしょう。

その他婚姻を継続しがたい重大な事由(民法770条1項5号)

「婚姻を継続しがたい重大な事由」には、性格の不一致、暴力・暴言、家族との不仲などがあります。
このほか、宗教上の対立や浪費癖、服役している、セックスレスなどもこれに当たります。どれにも言えるのは程度問題であることで、配偶者が改善の努力をしない場合や一定の限度を超える場合に適用されます。

離婚を切り出す前にしておきたい準備

離婚の準備において重要なポイントは主に5つあります。以下のように項目ごとにまとめましたので、離婚を切り出す前には必ず準備しておきましょう。

1.経済的に自立するための準備(仕事・収入源の確保)

専業主婦やパートタイムの人が離婚する場合は、はじめに経済的な自立に向けての準備が必要です。離婚に向けて計画的に貯蓄する、離婚後の仕事を探して収入源を確保するなどの準備を進めましょう。

将来を見据えるうちに冷静になれることもあるので、離婚後の生活について考えるのは大きなポイントです。

2.居住場所の準備

離婚前に住んでいた家に離婚後も住めるのなら問題ありませんが、別居して引っ越す場合は費用が掛かります。離婚の話し合いの途中での別居生活も考えられるため、早めに引っ越し費用や部屋を借りるための費用を準備しておきましょう。

その際には自分名義の通帳に貯蓄しておくと良いでしょう。

3.クレジットカードの申し込み

離婚を検討している段階でクレジットカードの申し込みをして作っておくと良いでしょう。一般的に離婚前は世帯収入が安定しているため、カード会社の審査が通りやすいと言われます。

離婚後に収入が不安定になる不安がある場合は、現金だけでなく複数の決済方法を用意しておく方が安心です。

4.請求可能なお金や各種保険の内容確認

離婚の準備では配偶者に請求できるお金や保険の内容について改めて確認しておくべきです。婚姻期間中に築き上げた財産は夫婦の共有財産となるため、離婚するときに資産価値のある財産があれば財産分与の対象になるのが一般的です。

また、保険の補償に財産分与になるものがあるのか、解約や名義変更が必要かなどの確認もしておきましょう。

5.証拠を集める

離婚の条件について相手が合意するためには、証拠を準備して提示することも効果的です。具体的な証拠は離婚の話し合いが進んで慰謝料や財産分与、養育費などを請求する際に必要なものです。

例えば、不倫が原因であれば一緒にホテルに入っていく写真、DVであれば診断書や通院の記録・メモ・写真、財産分与なら預金通帳などが証拠となるため、準備しておきましょう。

離婚前に知っておくべきお金の話

離婚の準備で大切なのは、離婚するときに「請求できるかもしれないお金」について知っておくことです。

準備段階で知識があるのとないのとでは、もらえるはずだったお金の額がまったく違ってきます。離婚後の生活を安定させるためにも、チェックしておきましょう。

婚姻費用

婚姻費用とは衣食住や養育にかかる生活費のことで、別居中でも夫婦が協力し分担しなければならない「生活保持義務」があります。

たとえ同居していても同じ義務があるため、生活費を渡さないのは法律違反です。婚姻費用は話し合いによって決めますが、双方の年収や子どもの人数などにより相場は変わります。また、婚姻費用は調停の申し立てをしてからもらえるもので、過去にさかのぼることはできません。

財産分与

離婚までの結婚生活で作られた夫婦の共有財産は半分に分けるのが基本です。

例えば、住んでいる土地・建物が夫の名義でも妻と協力し得られた財産となるため、分け合うことになります。預金通帳や登記簿など、共有財産を証明するものを準備しておきましょう。

ただし、結婚前の財産は共有財産にはならないこと、住宅ローンなどの借金も分与される点には注意が必要です。

養育費

離婚する時点で成人していない子どもがいる場合は養育費を請求できるのが一般的です。

離婚時に養育費を決めておかないと子育てに苦労することにもなりかねません。夫婦間の話し合いでも決めることはできますが、家庭裁判所の調停であれば算定表を使って基準の養育費をもらうことができます。

支払いが滞る可能性もあるので、公正証書にしておけば不安が軽減されるでしょう。

慰謝料

慰謝料は離婚の原因によって相場が変わります。配偶者の浮気が原因であれば、証拠を準備することでもらえる慰謝料の額も大きくなるでしょう。

慰謝料の請求にはいくつかのポイントがあるため、法的な専門知識を持つ弁護士に相談することをおすすめします。離婚の原因によって異なる慰謝料の相場を踏まえながら、素人が請求するよりも適正な額で手続きできます。

年金

離婚時の共有財産として分割できる年金は「厚生年金」の部分のみです。
厚生年金に加入していた会社員や公務員の場合、配偶者は離婚に際して婚姻期間中に支払いをした年金分を分割して請求できます。

話し合いによって2人の間で分割する割合が合意できれば問題ありません。しかし、合意できなければ調停や裁判によって、決められた計算方法で算出することになります。

配偶者が国民年金のみの自営業であれば、年金分割ではなく共有することの財産分与になります。

公的助成金・支援制度

離婚により母子家庭や父子家庭になれば、ひとり親に対する公的助成金や支援制度があるので利用することをおすすめします。

例えば、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当は子どもが18歳になるまで支給されるものです。住宅手当や医療費助成制度などもあり、所得や子どもの人数などから該当する助成金を利用できます。

また保育料の免除や減額、自立支援のための「自立支援給付金」などの支援制度もあるので、積極的に活用しましょう。

感情的にならず冷静に伝えることが大切

離婚を考えるような状況の場合、どうしても自分の気持ちを抑えきれず感情的になってしまいがちです。

しかし離婚の手続きはさまざまあり、相手に自分の条件を伝えて合意に至るまでには長期戦を強いられることも多くあります。離婚は十分に準備をしたうえで伝え、冷静に話し合いましょう。

その一方で、配偶者が感情的になってしまうこともあるので、弁護士に入ってもらうことをおすすめします。

まとめ

離婚したい気持ちが先走り、将来の生活設計も考えられなくなることは避けなければなりません。離婚する前に自分の周囲に協力してくれる人や相談できる人を見つけることも大切です。

離婚が成立するまでには多くの手続きや話し合いが必要なので、スムーズに進めることは困難と言えます。
この記事で説明したような、離婚する際に知っておきたい知識を踏まえてから離婚を進めていくといいでしょう。

離婚に対する不安や分からないことがあれば、弁護士に相談しましょう。弁護士を選ぶ際には離婚問題を多く取り扱っている経験豊富な弁護士に依頼するほうが心強く安心できます。



監修者:弁護士法人西村綜合法律事務所 代表弁護士 西村啓聡
[経歴]
東京大学卒業
第2東京弁護士会登録、岡山弁護士会登録

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