共同親権で何が変わる?改正の背景と、共同親権のメリット・デメリット【弁護士監修】
このページでは、令和6年に民法が改正され、2026年までに施行予定となっている「共同親権」制度について、弁護士監修の元で詳しく解説します。
共同親権とは何か、これまでの単独親権制度とどう違うのか、そしてご相談者様にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかを実務的に整理します。
目次
共同親権ってなに?離婚後も“親”として関わるということ
親権ってそもそもどんな権利?
親権とは、未成年の子どもを育て、生活面や財産面の保護を行うために法律上与えられた権利・義務の総称です。
大きく分けて、子どもを日常的に監護・教育する「身上監護権」と、財産管理を行う「財産管理権」があります。これらは親のためではなく、あくまで子どもの利益のために行使されるものとされています。そのため、親権をどちらの親が持つかは、子どもにとってどちらがより良い環境を提供できるかを基準に決定されます。
今までは「離婚=どちらか一方が親権者」だった
これまでの日本の制度では、離婚後は必ずどちらか一方の親が単独で親権を持つ仕組みでした。両親が揃って親権を持つことは、結婚している場合に限られており、離婚後は法律上「単独親権」となります。
そのため、どちらが親権を持つかで激しい争いに発展することもあり、子どもをめぐる対立が離婚の大きな障壁となっていました。
共同親権になると、何がどう変わる?
法改正により、離婚後でも父母が合意すれば共同親権を選べるようになります。
これにより、親権を「奪い合う」のではなく、「分担して行使する」道が開かれました。たとえば、進学や転居といった重要な意思決定について、別居している親も関与できるようになります。実務上は、これまで親権を持たなかった側(多くは父親)にも子どもの将来に関わる機会が与えられる可能性が広がります。
共同親権って選べるの?制度のポイントを解説
法改正でどう変わる?いつから始まる?
2024年5月に成立した改正民法により、共同親権の選択が可能となります。
施行時期は、公布から2年以内、すなわち2026年5月24日までに制度が始まる見込みです。施行日以前に離婚した場合も、親権変更の申し立てを行えば、共同親権への切り替えが認められる可能性があります。制度開始前後で対応が変わるため、離婚を考えている方は早めに方針を決めておく必要があります。
単独親権と共同親権、どちらかを選ぶ時代へ
改正後は、父母が離婚する際に、共同親権にするか、単独親権にするかを選ぶことになります。
協議離婚では両親が合意して親権の形態を決定しますが、合意が得られない場合は家庭裁判所が判断します。重要なのは、どちらが「勝ち」かではなく、どちらが子どもの利益を最も守れるかを冷静に見極めることです。ご相談者様の状況に応じた選択が求められます。
DV・虐待があるときはどうなる?裁判所が判断するケースも
DVや虐待があった場合など共同して親権を行うことがこの利益を害すると認められるときには、共同親権は適用されません。
家庭裁判所は、父母間の対等な協議が不可能と判断した場合や、子どもに危険が及ぶおそれがある場合には、単独親権とする判断を下します。
ただし、精神的な虐待やモラハラなど、外形的に証拠が得にくい事案では、証拠収集が非常に重要です。弁護士に早期相談し、記録や証言の確保を進めておくことが望ましいです。
なぜ今になって共同親権?国が制度を見直した理由とは
そもそも、なぜ共同親権が必要とされたの?
これまでの単独親権制度では、親権を持たない側が子どもの人生から排除されるような形となり、子どもとのつながりを失ってしまう親が少なくありませんでした。こ
うした状況は、子どもの健全な成長にも悪影響を与えるおそれがあり、「離婚後も親として関与する」ことができる制度の必要性が高まっていました。共同親権は、その解決策のひとつとして注目されるようになったのです。
子どもと会えなくなる親が増えていた
離婚後、親権を持たない親が子どもと会えなくなるという問題は深刻です。面会交流がうまくいかず、子どもとの関係が断絶してしまう例もあります。
こうした背景を踏まえ、法務省は「子どもの利益」を最大限尊重する観点から、離婚後も両親が関与できる共同親権制度の導入を検討・推進してきました。
共同親権を選ぶと、日々の子育てはどうなる?
普段の生活で親の判断が必要なことって?
日常生活では、食事、衣服、習い事など、さまざまな判断を親が行います。
共同親権を選んだ場合でも、これらの日常的な行為については、子どもと同居している親が単独で決定できるとされています。これは、育児や生活が過度に煩雑化しないようにするための実務的な配慮です。
転居・進学・医療…どこからが“重要事項”?
一方で、進学先の選定や転居、重篤な医療行為などは「重要事項」に分類され、両親の合意が必要なケースもあります。
合意が得られない場合は、家庭裁判所に判断を委ねる必要があります。共同親権を選んだ以上、事前の話し合いと記録の整備が非常に重要になります。事実上、意見の対立を想定して備えておくことが求められます。
良いことばかりではない!?共同親権のメリット・デメリット
親権争いが激化しにくいのは大きなメリット
これまでの単独親権制度では、「どちらが親権を取るか」で離婚協議や調停が長期化することが少なくありませんでした。
共同親権制度が導入されれば、親権を「奪い合う」のではなく、「共有する」ことが可能となるため、協議のハードルが下がり、早期に離婚の合意が成立しやすくなるケースもありうるとは考えます。
面会交流や養育費がうまくまとまるケースも
共同親権のもとでは、両親がともに「親としての責任を持つ」ことになるため、別居している親も自覚を持ちやすく、面会交流や養育費の支払いにも積極的に応じる可能性が高まります。
実際、従来の単独親権制度では、親権を持たない親が子どもに対する責任感を失い、結果として養育費の不払いが起こる例も多く見られました。制度の改正により、継続的な関係を築くことで子どもの福祉にとって望ましい環境を整えることが期待されています。
でも、子どもへの負担や意見の対立には注意が必要
一方で、共同親権にはデメリットも存在します。たとえば、父母間で教育方針や医療、転居に関する意見が食い違うと、子どもが板挟みになる可能性があります。
また、定期的な面会交流のたびに移動が必要となる場合、子どもにとって肉体的・精神的な負担になることもあります。さらに、感情的な対立が残る関係性では、形式的に共同親権を選んでも機能しないおそれがあります。制度のメリットだけでなく実情を踏まえて判断することが求められます。
※共同親権でも「監護及び教育に関する日常の行為」(新民法第824条の 2第2項)は、親権の単独行使が認められます。この意義について、法務省は、「日々の生活の中で生ずる身上監護に関する行為 で、子に対して重大な影響を与えないもの」をいうとし、具体例として、「その日の子の 食事といった身の回りの世話や、子の習い事の選択、子の心身に重大な影響を与えない ような治療やワクチン接種、高校生が放課後にアルバイトをするような場合等がある。」 旨の答弁を行ています。このような内容を踏まえつつ、同居親としては、非同居親との対立が生じた場合やそのおそれがある場合には弁護士とも相談して準備を行うことになります。
共同親権になったら、引っ越しや再婚ってどうなる?
転居には相手の同意が必要?できないときは?
共同親権では、子どもの生活環境に大きな影響を与える転居は「重要事項」にあたります。そのため、引っ越しにはもう一方の親の同意が必要となります。
仮に同意が得られず、強行的に転居してしまうと、違法行為とみなされる可能性や、親権変更の申立てを受けるリスクもあります。どうしても合意が得られない場合には、家庭裁判所での判断が必要となるため、早めに弁護士へ相談し、適切な対応を進めることが重要です。
※ただし、法務省は、「入学試験の結果発表後の入学手続のように、一定の期限までに親権を行うことが必須であるような場合、DVや虐待からの避難が必要である場合、緊急の医療行為を受けるため医療機関との間で診療契約を締結する必要がある場合等」は、単独親権の行使が認められうる事情と考えているようです。そのため、常に転居ができないというわけではありません。この判断については事前に弁護士に相談しておくことも考えられます。
再婚相手との関係、養子縁組があるとどうなる?
ご相談者様が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をした場合、再婚相手にも親権が認められることがあります。
すでに実親が単独親権を持っている状態では、実親と養親との間で「共同親権」が発生する可能性があります。ただし、この場合でも、もう一方の実親との法的な親子関係は残るため、面会交流が制限されるわけではありません。再婚時には、親権の構造や法律上の影響を踏まえて慎重に判断する必要があります。
親の都合で子どもが振り回されないようにするには
最も大切なのは、子どもの生活環境を安定させることです。共同親権を選んだ場合でも、父母のどちらか一方が過度に介入しすぎると、子どもにとってストレスとなる可能性があります。
また、親同士の意見が衝突しやすい場面では、争点ごとに事前のルールを取り決めておくことが望ましいです。制度を有効に活用するためには、単に「親権を共有する」だけでなく、「役割をどう分担するか」を実務的に詰めておく必要があります。
これって違法?親権問題でよくあるトラブルとQ&A
同意なく転校・引っ越ししてしまったら?
共同親権のもとでは、転校や引っ越しといった重大な事項については、原則として両親の合意が必要です。
もし相手の同意を得ずに実行してしまった場合、親権の不適切な行使とみなされ、将来的に親権変更の対象となるおそれがあります。また、裁判所による審判の結果、親権そのものを失う可能性も否定できません。重要事項に関しては、記録を残しながら事前の協議を丁寧に行うことが重要です。
※ただし、法務省は、「入学試験の結果発表後の入学手続のように、一定の期限までに親権を行うことが必須であるような場合、DVや虐待からの避難が必要である場合、緊急の医療行為を受けるため医療機関との間で診療契約を締結する必要がある場合等」は、単独親権の行使が認められうる事情と考えているようです。そのため、常に他方の同意がなければ進学手続きができないというわけではありません。
養育費の支払いが滞ったときどうする?
共同親権を選んでも、養育費の不払いが発生する可能性はゼロではありません。
ただし、改正法により、養育費請求の簡素化や、養育費債権の優先回収(先取特権の付与)といった制度整備が進められています。支払いが滞った場合は、調停や履行勧告、給与差押えなどの手続を検討できます。ご相談者様の立場で適切に権利を主張するには、事前の取り決めと、証拠の保全が極めて重要です。
勝手に子どもを連れ出したらどうなる?
共同親権者であっても、同居していない親族が同居の親族の同意を得ずに居所を変えることは、日常の行為とも言えず、基本的には認められません。
制度が変わっても、準備すべきことは一緒です
離婚前に準備しておくべき証拠や書類
親権に関する判断では、過去の育児実績や家庭内の役割分担が重視されます。
そのため、離婚前から子どもの送迎、病院同行、学校行事の出席状況などを記録し、証拠として残しておくことが重要です。また、LINEやメールのやり取り、写真、日記なども実績を裏付ける資料として役立ちます。ご相談者様には、「いざというときのための備え」として、日常的な証拠収集をおすすめします。
親としての監護実績をどう積み重ねるか
裁判所は、親権の帰属を判断する際、形式的な「親としての資格」ではなく、実際にどれだけ子どもと関わってきたかを重視します。
つまり、実績のある方が有利になるのです。たとえば、日常的に子どもと食事をしたり、寝かしつけたりする行為が積み重なっていれば、それが評価されます。共同親権を見据える場合でも、監護実績を地道に築いておくことが大切です。
親権だけでなく、養育費・財産分与も含めて検討を
離婚時には、親権だけでなく、養育費や財産分与、年金分割なども含めた総合的な取り決めが必要です。
親権の主張と金銭的条件が絡むケースも多いため、バランスを取った合意形成が求められます。将来的なトラブルを防ぐためにも、感情に流されず、冷静に法的観点から離婚条件を整理しておくべきです。弁護士を介することで、複雑な交渉も整理しやすくなります。
親権のご相談は西村綜合法律事務所へ
共同親権は、これまでの制度とは大きく異なる新たな仕組みです。離婚後も「親」としての責任と関与が求められる一方で、運用を誤れば重大なトラブルにもつながりかねません。
ご自身にとって有利な形で親権や面会交流の取り決めを行うには、法制度への理解と、現実的な見通しの両方が不可欠です。
西村綜合法律事務所では、岡山に根差した地域密着型の法律事務所として、親権や養育費に関するご相談を多数お受けしております。初回相談は無料で、オンライン面談にも対応しておりますので、遠方にお住まいの方やご多忙な方でも安心してご利用いただけます。経験豊富な弁護士が迅速かつ丁寧に対応いたしますので、共同親権に関して少しでも不安や疑問を感じた方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。