医師のための離婚相談 検討漏れをなくしましょう! | 離婚に強い岡山の弁護士なら西村綜合法律事務所

医師のための離婚相談 検討漏れをなくしましょう!

離婚においては、一般的に、
・ 少なくとも、①財産分与、②年金分割、③慰謝料、(④婚姻費用)
・ お子様がいれば、⑤親権・監護権、⑥面会交流、⑦養育費
について同時に考える必要があります。

そして、医師の方が離婚する場合、特に財産関係について一般の方とは異なる特色があります。さらに、特に経営者医師の方の場合、上記7つ以外にも、考えなければいけない特殊な問題もあります。

以下、そんな医師の離婚についてまとめてみました。検討漏れをなくすため、ご活用いただければ幸いです。

医師一般に問題となる事柄

収入の多さ

どのような立場の医師であれ、共通して問題となるのは、第一に、収入が多いことです。

婚姻費用と養育費

夫婦は、夫婦でいる間は、例えば別居していても、生活費を分担すべきものとされています。また、子どもがいる場合は、離婚後も、子どもの生活費については引き続き分担し合わなければなりません。前者が婚姻費用、後者が養育費と呼ばれるものです。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。
婚姻費用分担請求権について 気を付けるべきことは?
養育費とは 離婚後の子どもの生活費はどうなる?

ここで、この「分担」は、お互いの収入額に応じてしなければならないものとされています。
したがって、(元)夫婦の片方が医師のような収入の高い職業に就いている場合、負担すべき婚姻費用や養育費が高額に上ることがあり得ます。

算定表と収入

その分担額の求め方ですが、本来は、(元)夫婦それぞれの可処分所得(基礎収入額)をはじき出し、それぞれの世帯の生活費の割合を求め、収入をどう割り振ればいいかを計算する、という手順に則って求めます。具体的な計算式も存在します。ただ、婚姻費用や養育費は生活の命綱ですので、できるだけ早く話がまとめられるよう、統計等を参考に標準的数値を算出した結果を表にまとめたものが第一次的に参照されます。

いわゆる「算定表」と呼ばれているもので、裁判実務において強い通用力を有しています

詳しくはこちらの記事をご覧ください。
婚姻費用の(新)算定表について 算定表とは?旧算定表と新算定表の違いは?
養育費の新算定表について

2000万円問題

ここで、収入の高い方に関して問題になるのは、その算定表における基礎収入額の上限が2000万円とされていることです。実は、基礎収入額2000万円を超えるレベルとなると、収入額が増えても「生活費」は増えず、財産形成に回されるだけなのではないか、したがって婚姻費用・養育費も増えないのではないか、という考え方があるのです。

ですので、基礎収入額2000万円を超えるケースにおける婚姻費用・養育費に関する考え方は2つあり、
・算定表上限額で打ち止めとする見解
・打ち止めとはならず、以後は計算式に則って計算すべきとする見解
に分かれています。裁判体によっても考え方は異なります。

したがって、同ケースに該当する場合には、具体的生活実態なども十分に踏まえて、適切な交渉・主張を展開する必要があります。

資産の多さ

また、似た話になりますが、第二に、資産が多いことによる問題もあります。

離婚に際しては、婚姻中に夫婦が共同して形成した財産を分ける必要があり、財産分与と呼ばれます(詳しくは離婚に伴う財産分与の対象や流れについてをご覧ください。)。この財産分与を行う場合、分与対象の財産額を評価しなければなりません。

ここで、資産が多くなければ、シンプルな話、せいぜい不動産の価値をめぐって争いが生じるにとどまります。しかし、高価な動産(美術品、装飾品等)、株式(特に非公開株式)、ゴルフ会員権等をお持ちの方の場合、これらも評価手法が複数あり得ることから、評価をめぐって議論が紛糾することがあります。

財産分与の割合

第三に、これは特に経営者医師の場合に問題になり得ることですが、財産分与の割合の問題があります。

上記の財産分与の時に夫婦何対何の割合で財産を分けるかにつき、現在の裁判実務では、「2分の1ルール」というものが定着しています。家事労働あっての財産形成であるというのが今日の考え方ですから、これは、片方が専業主婦/主夫であろうが関係なく、容易には例外は認められません。
ただ、その財産形成に対する寄与度が必ずしも同等ではなく、一方の特殊な才能や努力によってなされたとみるべき事情がある場合、例外を認める余地があります。そのような場合、上記「2分の1ルール」は修正を受けることがあり、実際、医師の財産分与において、修正された裁判例もあります。
容易に認められる主張とは言い難いですが、念頭に置いておくとよいでしょう。

形態別!医師の離婚

以上を前提に、以下、①勤務医の先生、②開業医(個人事業主)の先生、③医療法人経営者の先生に分けて、それぞれ解説してみます。

勤務医の場合

勤務医の先生の場合、収入・資産が多い以外の面は、比較的、一般の会社員の方と共通するところが多いと言えるでしょう。勤務先が厚生年金に加入している場合は年金分割の対象になりますし(年金分割についてはこちらの記事をご覧ください。)、勤続年数等いかんで、退職金が財産分与の対象になるかが問題となる可能性もあります。

開業医(個人事業主)の場合

財産分与

開業医の先生の場合、財産分与における対象財産の特定が一つポイントになるでしょう。すなわち、あくまで個人事業主である以上、事業用財産であっても、一律に財産分与対象から外れるわけではありません。ただ、当該財産が本当に「夫婦が共同で形成した」ものといえるかについて、ケースバイケースで激しく争われることが考えられます。

同様に、退職金もまたケースバイケースで、年金等の形で実際に備えがある場合は、財産分与の対象に入る可能性があります。

離婚外の問題①-配偶者の方との関係

加えて、離婚そのものの問題ではないものの、配偶者の方を事業上雇用していたり、事業用の融資を受ける上で配偶者の方が保証人となっていたりするケースでは、離婚と同時に、それらの事柄を今後どうするかも話し合う必要があります。後者については、金融機関担当者とも交渉する必要があるでしょう。

離婚するとはいえ、当然に解雇したり、保証人から外してもらえるよう要求できるわけではありませんので、あくまで、代替案を提示しつつ協議することが必要となります。

離婚外の問題②-配偶者の方のご実家との関係

これもいわば離婚の『付随的問題』なのですが、開業医の先生の場合、開業に当たり、配偶者の方のご実家から援助を受けている場合があり、離婚に際し、「それなら返済を」と求められることがあります(場合によっては事業の帰趨に関わる深刻な話です…。)。もっとも、「援助」といっても実態は様々ですから、返済請求が法的に認められるかどうかは個々の事案によりけりです。例えば金銭の援助であれば、貸付けなのか贈与なのか、貸付けだとして立証が可能なのか等が問題となり得ます。ご事情に応じて交渉の仕方を考えていく必要があります。

加えて、やや特殊なケースとして、医師(男性)の先生が配偶者の方のご実家に婿入りして医業を継いでいるような場合には、離婚とは別途、離縁が問題になります。

医療法人経営者の場合

以上のことは医療法人経営者の先生の場合も同様に問題となりますが、個人事業主の先生とは異なる問題が2点あります。

1点は、医療法人の資産の場合、法律的には、夫婦とは別人格の法人の資産である以上、財産分与対象にはならないのが原則であり、名義が実態を反映していない等の場合に例外的に対象に含まれ得る、という形になります。つまり、個人事業主の先生の場合とは、原則と例外が逆転します。

もう1点は、医療法人への出資持分権についてです。平成19年の医療法改正以前に設立された医療法人の場合、定款の定めがあれば、医療法人への出資者には、その持分について払戻しを求めることが認められますから、配偶者の方に持分があるなら、この関係を清算しておくことを検討すべきです。これは配偶者の方のご実家との関係でも同様です。なお、この出資持分権については、その経済的価値をどう算定するかも難しい問題になってきます。

まとめ

以上、医師の方の離婚についてまとめてみました。

離婚は、いわばありふれた法律問題に見えるかもしれませんが、実は、いろいろなことを同時に考えていかなければいけない難しい問題です。それが医師の方の場合、往々にして、輪をかけて話が複雑になってしまいます。
極めて責任の重いお仕事をされながらこのような問題に立ち向かうのは、とてもストレスがかかることだと思います。

お困りの際は、ぜひ、弁護士への相談も検討なさってください!